一般社団法人 日本遺体衛生保全協会

IFSAは、エンバーミング(遺体衛生保全)の適正な実施と普及を目的としております。

感染症の実態

ご遺体の中のウイルス・細菌は死後も生き続けます。

獨協医科大学の病理解剖室

解剖は充実した設備・完全防護が基本

獨協医科大学越谷病院では、病理解剖の際、感染防止を目的とした服装で、解剖室に入る。
これは同病院及び他の大学病院の病理解剖500例中65.2%にあたる326例に感染が認められたデータから、ご遺体の中には何らかの細菌・ウイルスがあると想定する必要があると判断されているためです。
獨協医科大学越谷病院病理解剖室で使用されている感染症防護服

獨協医科大学越谷病院病理解剖室で使用されている感染症防護服

さらに、解剖室にも様々な感染防止用の特別な設備が設けられています。
  1. 空気感染を防ぐための完全密閉式ドア
  2. 吸引式空気浄化フィルターの使用
  3. 体液、血液を凝固させる装置
  4. 解剖後に消毒するためのホルマリン燻蒸器

ウイルス・細菌の活動

ウイルス

  1. 人体の細胞が生きている限り、生き続ける
  2. 人間の細胞は、死後数時間生き続ける。

細菌

  1. 細胞の生死に関わらず、栄養物があれば活動・増加を続ける。
  2. 人体の細胞は、死後栄養物となる。

大腸菌の増殖実験データ

細菌の増殖についての実験

細菌の増殖に関する簡単な実験として、ごく一般的な菌である大腸菌を尿10ml中に、約10の2乗個入れて常温で放置し経時的に細菌数を計測するとグラフのように24時間後には10の7乗個に増加しました。
※室温より高い温度だと、この結果以上に増加する可能性が高くなるといえます。

細菌の増殖についての実験
資料提供:
獨協医科大学越谷病院病理部
医学博士 森 吉臣 名誉教授

病原菌の種類と関連疾病

病理解剖に見られる感染症

獨協医科大学越谷病院の調査例、同病院および他の大学の病理解剖500例中65.2%にあたる326例に感染症が認められました。
特に感染力の強い肝炎ウイルス、敗血症(MRSA)、結核症等重症感染症は合計72例、全体の14.4%を占めています。
こうしたデータから見てもエンバーミングによる早急な対策が必要です。

病理解剖500例に見る感染症

肺炎 161例
ウイルス性肝炎 35
肺真菌症 21
敗血症(MRSA含む) 19
肺結核症 18
膀胱炎 12
胆嚢・胆管炎 10
肺膿傷 9
化膿性腹膜炎 8
細菌性心外膜炎 7
肝膿傷 6
細菌性心内膜炎 5
化膿性胸膜炎 4
ヘルペス感染症 2
横隔膜化膿傷 2
偽膜性腸炎 2
腎膿傷 2
ガス壊そ感染 1
感染症あり 326例(65.2%)
感染症なし 174例(34.8%)
肝炎ウイルス感染症 35例(7.0%)
敗血症(MRSA) 19例(3.8%)
結核症 18例(3.6%)
重症感染症

合計72例
500例の解剖症例中14.4%に相当する
資料提供:
獨協医科大学越谷病院病理部
医学博士 森 吉臣 名誉教授

感染症の割合

感染者と非感染者の割合

感染者と非感染者の割合
資料提供:
獨協医科大学越谷病院病理部
医学博士 森 吉臣 名誉教授

感染者と非感染者の重症感染者割合

感染者と非感染者の重症感染者割合

様々な感染経路

ご遺体からの感染源

体液で汚染された皮膚  
漏出した体液 血液、肺分泌液、胃分泌液、精液、膣液、尿、便、他
その他、解剖した場合 腹水、胸水、脳延髄液、他

感染経路別原因微生物

接触感染 多剤耐性菌(MRSA、VRE、PRSPなど)
C、Difficile、O-157、赤痢菌、A型肝炎ウイルス、ロタウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、ジフテリア菌、単純ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ラッサウイルス、エボラウイルス
飛沫感染 インフルエンザ菌(type.b)、髄膜炎菌、ジフテリア菌、マイコプラズマ、百日咳菌、ペスト菌、溶連菌、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、パルボウイルス
 空気感染 麻疹ウイルス、水痘ー帯状疱疹ウイルス、結核菌
資料提供:
獨協医科大学越谷病院病理部
医学博士 森 吉臣 名誉教授

ご遺体からの感染症を防ぐ唯一の方法

ご遺体からの感染を防ぐ方法は、整った設備でのエンバーミングのほかにはありません。

エンバーミングに使用する防腐剤の減菌効果

通常使用する程度に希釈した10mlの防腐液を試験管にとり、 その中に大腸菌を10の5乗個入れて、生存する細菌を計測した ところ、15分でほぼ死滅し、30分で生菌はほぼ0となりました。 これはエンバーミングによって、体内の細菌は30分以内に滅菌 されることを意味します。但し、防腐液が全身にくまなく浸透 した場合です。
防腐液10ml中の細菌数と時間
資料提供:
獨協医科大学越谷病院病理部
医学博士 森 吉臣 名誉教授

エンバーミング処置前と処置後

エンバーミング処置前と処置後の遺体表面の細菌について

臨床診断:肺癌 64歳男性

検出部位 検出細菌(エンバーミング前) 検出細菌(エンバーミング後)
眼粘膜 緑膿菌(+)
ブドウ球菌(+)
すべて(−)
口腔 α-連鎖球菌(+++)
ナイセリア(+)
コリネバクテリウム(+++)
ブドウ球菌(++)
ブドウ球菌(5ヶ)
鼻腔 ブドウ球菌(+) すべて(−)
皮膚(肩) ブドウ球菌(+)
バシラス(+)
コリネバクテリウム(+)
すべて(−)
皮膚(股) クレブジエラ(+)
大腸菌(+)
コリネバクテリウム(+)
大腸菌(8ヶ)

臨床診断:敗血症 52歳女性

検出部位 検出細菌(エンバーミング前) 検出細菌(エンバーミング後)
眼粘膜 緑膿菌(+++) すべて(−)
口腔 ブドウ球菌(++)
エンテロバクター(+)
緑膿菌(++)
α-連鎖球菌(+++)
すべて(−)
鼻腔 ブドウ球菌(+) すべて(−)
皮膚(肩) ブドウ球菌(+) すべて(−)
皮膚(股) 緑膿菌(+)
大腸菌(+)
コリネバクテリウム(+)
ブドウ球菌(+)
クレブジエラ(+)
すべて(−)
心筋梗塞症や脳卒中などで比較的急に亡くなった遺体のほうが、検出される細菌の数も少ない傾向がある。しかしいずれにせよ、一般に予想外に多くの細菌が検出されることに注意したい。これに対し、エンバーミング処置後ではこれらの細菌はほとんど検出されない。
資料提供:
獨協医科大学越谷病院病理部
医学博士 森 吉臣 名誉教授

一般社団法人 日本遺体衛生保全協会

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